新藤悦子著『月夜のチャトラパトラ』トルコ語翻訳版刊行
『月夜のチャトラパトラ』は、トルコのカッパドキア地方を舞台とした12歳の少年カヤと、カヤがキノコ岩の森で出会った「チャトラパトラ」と呼ばれる三人の「小さな人」、カヤを取り囲む個性豊かな大人たちの物語である。2009年に講談社より出版され、2010年には全国学校図書館協議会選定図書に選ばれた。「古代から異文化の交わる地、トルコの歴史や文化や風習が背景にあり、大人にも興味深い」として、高い評価を受けている(林2010)。
出版から3年が経った2012年、本作品の翻訳版が舞台となったトルコの地で刊行されることとなった。これは第二次世界大戦終結後日本語で書かれた児童文学のうち、他の言語を介さずトルコ語へ直接翻訳された初の作品となる(Esen 2012)。(Numata 2013)
翻訳はエシン・エセン氏によって行われ、トルコ語版のタイトルは“Kapadokya’da Çatra Patralar”(カッパドキアのチャトラパトラたち)と名付けられた。2012年10月にトルコの大手児童書出版社ジャン児童出版から出版された。(Numata 2013)
著者:新藤悦子、「カッパドキアのチャトラパトラ」翻訳:エシン・エセン、挿画:ギョズデ・ビティル、出版コーディネート:イペッキ・ショラン、編集:エブル・アッカシュ、装幀:フセイン・アルトゥネル、ジャン児童出版社、現代世界文学シリーズ、2012年(日本語より翻訳)
月夜のチャトラパトラ トルコ語版』“Kapadokya’da Catra Patralar”の サイン会
11月17日には、イスタンブルのテュヤップ・ブック・フェアにおいてサイン会も催され、作者と翻訳者の双方が出席した。サイン会について、作者の新藤氏は次のような感想を抱いたという。
サイン会はブックフェアの会場だったので、まず、子どもたちが親や学校の先生に引率されてブックフェアに来場することが新鮮でした。日本のブックフェアは業界向きなので、一般の人も入れますが、子どもはあまり来ないと思います。日本は学校でも地域でも図書館が充実していて、本は「借りて読む」環境があるため、トルコの子どものように目を輝かせて「自分の本」を選ぶ機会も少ないでしょう。
トルコの児童書には、持ち主の名前とひとこと感想を記入するページがあって、本を自分の物(宝物)にする喜びがあるように感じました。日本にも昔はそういうページがあったそうですが、今はそのページがあると図書館で買ってもらえないためなくなったと編集者からききました。いずれにしても、子どもの名前を入れてサインをすると「自分だけの特別な本」になるので、それを喜ぶのはトルコの子も日本の子も同じです。トルコでは、ウケを狙って筆ペンを使い、印も押したので、興味深そうに見ていました。(Numata 2013)
『月夜のチャトラパトラ トルコ語版』“Kapadokya’da Catra Patralar”の 翻訳出版記念会
作家新藤悦子氏著の児童書『月夜のチャトラパトラ』(講談社)が、トルコ語に翻訳され、『カッパドキアのチャトラパトラ』(ジャン・チョジュック社)として出版されることを記念した翻訳出版記念会を当館共催にて開催した(協賛:ジャン・チョジュック出版社,虎屋)。
出版記念会が,11月14日にはタクシム広場にほど近い旧在イスタンブル日本国総領事館で、行われた。在イスタンブル日本国総領事館ページこちらからごらんください。
講談社やジャン児童出版の関係者以外にも、ボアジチ大学セルチュク・エセンベル教授やアンカラ大学アイシェヌール・テキメン教授といったトルコの日本研究者をはじめ、在イスタンブル日本国総領事館福田啓二総領事やアタとアナのモデルとなった夫妻など、70名以上が参加した。協賛の虎屋から来賓客に、物語のキーアイテムとなった羊羹がふるまわれ、ヨーコのモデルとなった画家小暮郁子氏の作品が展示されるなど、チャトラパトラの世界観が端々に感じられるひと時となった。(Numata 2013)
福田啓二 在イスタンブール日本国総領事よりご挨拶
作家新藤悦子様よりスピーチ
ジャン児童出版社編集長サーミエ・オズ様 Samiye Oz よりスピーチ:
「新藤悦子さんのこの本を紹介されたとき、エシンさんが説明してくれたことをきいただけでとても気に入って、出版を決めるのに充分なほどでした。
異なる国の異なる文化圏からきた画家と考古学者、二人の教養人、トルコの中でも歴史的にもっとも豊かな土地のひとつであるカッパドキアで暮らす少年が繰り広げる物語ときけば、それだけで興味を惹かれます。カッパドキアの神秘的な風景を少年の目を通じて見ることができるのです。そして、チャトラパトラが出てくると、この土地はますます不思議な場所になり、こどもたちにとって面白い世界になっていきます。
時を越えてローマ時代に旅をして、考古学や遺跡の大切さに触れたり、手芸や料理、お菓子、カッパドキアならではの風景や気候を伝えるのに、子供たちが退屈しないような魅力的な言葉で語っています。また、外国語をいくつも知っていると役に立つ、というメッセージもこめられています。このすばらしい本を翻訳してくださったエシンさん、出版してくれたジャン・チョジュク社のみなさん、どうもありがとうございました。
新藤悦子さんのこの本は、わが社が日本語からトルコ語に翻訳したはじめての児童書です。この本をきっかけに、児童文学において、私が敬愛する日本とトルコ、二つの文化のあいだで、協力が始まることを願っています。」
ボアジチ大学教授、アジア研究センター所長及び日本研究学会会長であるセルチュク・エセンベル様よりスピーチ:
セルチュク・エセンベル教授は、翻訳者エシンさんの、日本学者としての一面をご紹介くださいました。また、日本研究において、日本語からの翻訳本の中において、この本がどのように重要かもお話くださいました。
アンカラ大学日本語・日本文学科学科長、アイシェ・ヌル・テクメン教授よりスピーチ
講談社の編集者である、マツオカ・トモミ様よりスピーチ:
「みなさまこんばんは。
新藤さん、この度は、誠におめでとうございます。
日本の出版社、講談社から参りました、児童書の編集をしております、松岡と申します。『月夜のチャトラパトラ』を日本で担当させて頂きました。
『月夜のチャトラパトラ』には、カッパドキアの幻想的な景色をはじめ、洞窟ホテルの中の様子や、インテリア、いろいろな美味しい食べ物に、コーヒー占いなど、様々なトルコ文化が魅力的に描かれていて、原稿を読んで、私自身もトルコに来たいとずっと思っていました。
この本が翻訳され、舞台となったトルコの方々にも読んでいただける事は、日本の担当者としてもとても嬉しいです。
ご尽力くださった、エシンさんや、ジャン社の皆様、本当にありがとうございました。
新藤さんのご著書は、日本では全国の小学校の図書館から購入されていて、日本中の子ども達に読まれています。
カッパドキアでホテルを経営する家族と日本人旅行客との心温まる友情のお話が、トルコの子供達にも広く、また長く愛されて欲しいです。
『月夜のチャトラパトラ』は、トルコの方々と日本人がお互いに親しみを感じることができる素晴らしい作品だと思いますので、
この本をぜひご喧伝頂き、トルコでもロングセラーにして頂ければ幸いです。
また、トルコと日本の間で、本の行き来がこれを機会にさらに盛んになり、
トルコの方々と日本人の交流がますます深まっていく事を願っております。
ありがとうございました。”
アッバス・アタマンさんにとって、悦子さんは古い友人、エシンさんは姪御
さんである。昔からよく知っている二人が、力をあわせてこの本を出したことを、大変およろこびであった。そして、毎年日本で開催される観光フェアでも、両国の作家のサイン会など文化的な活動を取り入れたらというご提案もされた。
Şermin Atamanさんは、悦子さんから七夕の話をきいたとき、トルコにも同じような伝説があるので驚いたそうである。東京からきた悦子さんと、イスタンブルからきたシェルミンさんが、カッパドキアで出会ったのは、二つの星の出会いにも似て、素晴らしいことだと話された。
新藤悦子のご友人である、セラップ・ジャン様よりスピーチ :
セラップ・ジャンさんは、30年間に渡って日本人と仕事をされてきた。中でも悦子さんは古くからの一番の友だちで、妹みたいな存在である。でも、これまで悦子さんの本を読みたくても、日本語だから読めなかったので、トルコ語で読めるようになって、本当にうれしいと述べた。
エシンさんは、この本を翻訳することになったいきさつと、翻訳の過程で感じた興味深いことなど、翻訳の秘話を披露した。